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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)836号 判決 1960年10月11日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋竜彦の上告理由第一点について。

所論は理由不備、理由齟齬、経験則違反をいうが、原判決の認定しない事実に基いて原判決の証拠の取捨、事実認定を非難するものに過ぎず、原判決の採用した証拠によればその事実認定を首肯することができ原判決には所論のような違法は認められない。所論は採用するに足りない。

同第二点について。

所論は理由齟齬をいうけれども、原判決が確定した事実によれば昭和二八年四月七日本件当事者間に上告人を貸主、被上告人を借主として締結された契約は、被上告人は荒廃している本件(第一審判決末尾目録記載)農地の整地を引受け借地料は最初の三年間は無料とする約款は附いているが、被上告人は本件農地を整地の上耕作地として使用する、期間は同日より一〇年とする、使用の対価は最初の三年間は無料、三年を経た後はその年の作柄によつて随時協議することを約したものであるというに帰する。されば本件契約の使用料額は三年後からは当事者双方協議の上収穫高によつて定めるものであるから、その額は所轄町農業委員会の定める小作料の最高額を超過してはならないとの約旨であつたと解すべく上告人も自らその限度の対価を支払うべきことを認めているので、本件土地の賃料は農地法二一条により所轄壬生町農業委員会の定める最高小作料額とすべきものであるとした原審の判断は相当である。そしてかような農地賃借権を認めた貸主である上告人は右契約上当然に相手方に対しその使用権の効力を完全ならしめるため使用権設定の許可申請に協力する義務あるものといわなければならないから、右契約に基く本件農地使用権設定の許可申請手続を右委員会に対してなすべきことを上告人に命じた原判決は正当であつて、これに所論のような違法はない。

同第三点について。

被上告人は、本件請求の趣旨として所論のとおり本件農地についての本件賃貸借契約に基く賃借権設定の許可申請をなすべきことを上告人に命ずる判決を求め、請求原因として昭和二八年四月七日当事者間に前点に摘示したような契約がなされた事実を主張したところ、原審は証拠により右事実を認定し請求の趣旨通りの判決を言い渡したものであること記録上明白である。原判決には当事者の申立てない事項につき判決した違法はない。

同第四点について。

被上告人が請求原因として昭和二八年四月七日上告人よりその所有の本件農地を賃借した事実を主張したのに対し、原審は証拠により第二点で摘示した通りの賃貸借成立の事実を認定し、この契約の趣旨に従えば上告人は当然所論農業委員会の許可を申請すべき義務を有するものであることを判示したものであること判文上明らかであるから原判決には所論のような審理不尽、理由不備あるものではない。

同第五点について。

原判決は本件契約当時現況農地であつた本件土地について上告人と被上告人間に賃料を原判示の通り定めた賃貸借契約が締結された事実を認定したものであること判文の全趣旨に照らして疑を容れないから、原判決理由は主文を維持するに足り、所論のような違法はない。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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